七夕の国 -SF伝奇ミステリー-

SF

ビッグコミックスピリッツで連載されていた「七夕の国」の感想です。

 

TVアニメ化、映画化した寄生獣を代表作とする岩明均さんの作品です。

寄生獣がSFアクションとするなら、本作はSFミステリーでしょうか。

派手なバトルはありませんが、序盤からある謎が少しずつ解けていく面白さがあります。

 

※今回から参考として、一番下の段落「-作品名- コミックス」の欄に作者様の作品リストを入れることにしました。

目次からも飛べますのでご参照ください。

過去に投稿した感想にも順次入れていく予定です。

作者:岩明均様 出版社: 小学館 (1997/6/30)

七夕の国 あらすじ

 

大学で「新技能開拓研究会」の部長を務める南丸洋二。

物体に小さな穴をあけられる超能力者である。

 

ある日、同じ大学の教授「丸神正美」に呼び出しを受け、研究室を訪ねる。

しかし、教授は調査で東北にある丸川町へ調査に行ったまま行方不明になったという。

そこで丸神と南丸は共通の先祖を持つものだと知らされ、さらに南丸と同じ能力を持つ者の仕業と考えられる手がかりがみつかる。

 

一方、丸神の里である丸川町では、頭部が抉り取られた死体が発見される。

犯行現場の窓ガラスには大きな丸い穴が開いており、自身の能力との関連も考えられた。

この事件を知り、丸神の身を案じた講師の江見と丸神ゼミのメンバーに同行を求められ「丸神の里」へ向かうことになる。

七夕の国 キャラクター

 

南丸洋二

新技能開拓研究会部長

本名は「みなみまる」だが、言いにくいため「ナンマル」と呼ばれる。

紙やプラスチック、ブリキなどに小さな穴をあけられる超能力者。

この能力は祖父に教えられたものである。

”特別な、選ばれた人間”にしかできない技であるということだが・・・。

 

丸神ゼミ

丸神正美

歴史民俗学 教授

丸神正頼という地方豪族の子孫。

自分の先祖や傍流の家系について調べていたところ、大学の生徒である南丸が同じ先祖を持つとつきとめる。

掲示板を使い南丸を呼び出すが、南丸と会う前に消息を絶つ。

 

江見早百合

講師

丸神ゼミと南丸を連れ、自分の一族や先祖について取材・調査中に消息を絶った丸神の足取りを追う。

外部の者としては最も真実に近づくことになる。

 

多賀谷守

ゼミ生

丸神に依頼され「丸神の里」の1万分の1の模型を作成する。

丸神山と七ツ峰の形に不自然さを感じ取る。

 

桜木知子

ゼミ生

多賀谷と共に南丸の超能力を肯定的にとらえる数少ない人物。

 

丸川町

丸神頼之

窓をひらき、手がとどく者。

容姿は人間の枠から大きく外れている。

 

東丸幸子

丸川町の喫茶店でアルバイトをするショートカットの少女。

町に訪れた南丸に、能力の詳細を伝える。

 

東丸高志

幸子の兄。

能力を”有効活用”すると称し、新技能啓発セミナーを開く。

セミナーに客を寄せるため南丸に近づく。

 

七夕の国 感想

 

能力モノにも関わらず、バトル展開にならず謎解きになるところが面白いです。

能力の存在が、謎解きをさらに楽しいものにしています。

 

以下から説明していきますが、能力は二つあります。

どちらかというと手がとどく能力ばかりに目が行ってしまいがちですが、窓をひらく能力こそ事件が起こった要因なのではないかと思います。

能力

丸川町で古くから続いている家系には時々素質を持ったものが生まれる。

「手がとどく者」と「窓をひらいた者」と呼ばれる能力者である。

窓をひらいた者は町に何人もいるが、手がとどく者は南丸をいれて6人しかいない。

 

能力には以下のような関係がある。

POINT! 窓をひらいた者は窓の外が見えるが手がとどかない。

手がとどく者は窓の外が見えないが手がとどく。

窓をひらき、かつ手がとどく者こそ丸神山の神官となる資格がある。

窓をひらいた者

窓の外が見える者。

丸神教授や幸子の他にも丸川町に大勢いる。

丸神教授によれば”夢の中に稀に現れ、手をさしのべてくれる「カササギ」をこの地で待たずにはいられない”

 

幸子によれば”たまに怖い夢を見る”

また、”どこからも引き離された宇宙空間のような気もするし、深い深い地の底に生き埋めにされて身動きできないような感じでもあるし、ずっとひとり・・・千年たっても1万年たっても暗い場所にずっとひとりとじこめられた永遠の意識のような”

さらに、”窓の外はとにかくここではない「外」であると同時に、外にたった一人でいるはずなのに、誰かが手をふっている。”と語っている。

 

丸神教授の「手をさしのべてくれるカササギ」

幸子の「外にたった一人でいるはずなのに、誰かが手をふっている」

二人の語る窓の外に見える存在は同じものと推察できる。

手がとどく者

窓の外に手がとどく者。

あらゆる物体を抉り取る球体を生成することができる。

これを知る者の間では「窓の外」と呼ばれている。

窓の外に手がとどく者のみが「窓の外」を少し掴んでもってくることができる。

能力発動のコツは”小指の外側の親指の対象位置にもう一本親指があるようにイメージし、12本の指で一点を押さえるように”とのことである。

犯人の目的は?

丸神の里は島寺という大名と隣接する最上氏との間で合戦が行われた場所と現代には伝わっています。

しかし、実際は第一話の冒頭部分を見ていただければ一目瞭然です(試し読み ※下記の試し読みのリンクと同じものです)

島寺は戦略的、戦術的に有利な丸神山に城を築こうとしたために、島寺の領民である「丸神の里」の能力者数名によって島寺軍3千は討ち破られてしまいます。

 

そして現代。

丸川町の建築屋である倉石という男が頭部の半分近くをえぐり取られ殺されます。

この建築屋は「丸神カントリークラブ」建設を計画していました。

 

この現代と過去の二つの出来事に共通するものがあります。

現代の出来事である建築屋殺害の犯人は「心のふるさとを守ろうとしただけであり、窓をひらいた者の気持ちとしては当然のことをしたまで」と語っています。

これは、「目次の3.1.1 窓をひらいた者」の丸神教授と幸子の言葉に通じるものがあります。

島寺と最上の時代の丸神の里の住人たちも言わずもがなです。

 

頭部の半分を抉り取っていることから、犯人は「手がとどく者」であることは明白です。

しかし、この作品は犯人捜しをする作品ではありません。

名探偵が現れて推理し「犯人はお前だ」という展開も面白いですが、本作では大したことでもないように普通に犯人が判明します。

本作の面白いところは「犯人が誰か」ではなく「犯人の目的がなにか」なのです。

そもそも、手がとどく者の犯行だとわかっている時点で犯人は限られてしまっていますから。

 

そして、この事件から引き続き「人」「普通自動車」「トラック」「軽飛行機」「船」「ビル」「町の一区画」が丸々消える「消滅事件」へとつながります。

徐々に消す物体が大きくなる意味とは?

 

当初、犯人は丸神山を守ることが目的だったはずです。

しかし犯人は、ふと疑問に思います。

手がとどく者の作る球体「窓の外」と窓をひらいた者が夢でみる「窓の外」は同じものなのだろうか、と。

「窓」と呼んでいたものが実は「玄関」だったのではないかと考えたのです。

バトルものではなくミステリー

上記のような能力を持つ者が登場するとなると、能力バトルを想像します。

しかし、この漫画の主人公「南丸洋二」は良く言えば「大らか」悪くいえば「能天気」な人物であるため、手がとどく者の能力を使ったバトルは行いません。

南丸は基本的に平和主義なのか「やりようによっては就職に生かせるのでは」「核廃棄物などの処分が難しいゴミ問題に役立てるのでは」といった考え方をしています。

その為、決めるべきところは決めるのですが、基本的に南丸は傍観者のような立ち位置です。

 

肝心のミステリー部分は江見先生と丸神教授が担当し、謎を解いていきます。

七夕とはなにか。

1話目の冒頭にある丸神の旗印「カササギ、黒丸、人の手」の意味は。

 

謎解き部分と、窓をひらいた者の苦悩。

そこに、能天気な南丸がアクセントとなっていいテンポで読んでいくことができます。

まとめ

SFミステリー作品です。

同作者様の寄生獣とは趣が異なりますが、別のベクトルの面白さがあります。

ミステリー、伝奇、伝承、歴史などが好きな人におすすめします。

 

派手なバトルはありませんが、謎が明かされていく様はバトルものにも負けない爽快感があります。

全て読み終わってから、一話目を読み「島寺通康」が今際の際に何を見たのか想像するのも面白いです。

七夕の国 コミックス

 

作者:岩明均様

全4巻:完結

掲載誌:ビッグコミックスピリッツ

作者様 作品リスト

  • 風子のいる店(1985年 - 1988年、『モーニング』連載)
  • 骨の音(短編集。1990年)
  • 寄生獣(1988年 - 1995年、『モーニングオープン増刊』→『月刊アフタヌーン』連載)
  •  ネオ寄生獣f(原作、アンソロジー。2015年)
  •  ネオ寄生獣(原作、アンソロジー。2016年)
  • 七夕の国(1996年 - 1999年、『ビッグコミックスピリッツ』連載)
  • 雪の峠・剣の舞(中編集。雪の峠:1999年、『モーニング新マグナム増刊』掲載。剣の舞:2000年、『ヤングチャンピオン』掲載)
  • ヘウレーカ(2001年 - 2002年、『ヤングアニマル嵐』連載)
  • ヒストリエ(2003年 - 、『月刊アフタヌーン』連載中)
  • ブラック・ジャック〜青き未来〜(脚本提供。原作:手塚治虫、作画:中山昌亮。2011年 - 2012年、『週刊少年チャンピオン』連載)
  • レイリ(原作・脚本。漫画:室井大資。2015年 - 2018年、『別冊少年チャンピオン』連載)

出典:Wikipedia 岩明均 作品リスト 連載 より

試し読み

下記リンクより小学館eコミックストアにアクセスし、表紙画像横の「試し読み」をクリック。
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ちょっとした超能力が使えるのが取り柄の南丸こと、ナン丸はある日、知り合いでもない民俗学の教授・丸神から呼び出しを受けた。…

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