水域 -雨の止まない村と雨の降らない町-

蟲師の漆原友紀さんの「水域」を紹介させてください。

全2巻と短い作品ですが、自然の描写と人々の想いが印象深い作品です。

 

少し早いですが、私は夏が来るたびに思い出して読み返したくなります。

 

作者:漆原友紀様 出版社: 講談社 (2011/1/21)

水域 内容

 

盛夏。

日照り続きで給水制限中の町で意識を失って倒れた千波は、雨の止まない村の夢を見る。

時間が止まったかのような村で、千波はおじいさんと少年に出会う。

 

それから村の夢を見るようになった千波。

千波を心配する家族。

そして母と祖母も同じ夢をみる。

 

村に纏わる親子三代の物語。

 

水域 キャラクター

 

現実の町

川村千波

中学3年生の水泳部所属。

部活でのランニング中に意識を失い、雨の止まない村の夢を見る。

 

川村和澄

千波の母。

千波と同じ年齢の頃に不思議な体験をしている。

 

川村清子

千波の祖母で和澄の母。

現在は一人で暮らしている。

 

雨の止まない村

スミオ

滝壺で千波と出会った少年。

夢の中の村に住む。

 

スミオの父

雨の止まない村でスミオと二人で暮らす。

どこかで会ったことがあるような男性。

 

水域 感想

 

もの悲しくノスタルジックで少し不思議な物語です。

静かで淡々とした雰囲気ですが、すごく印象に残っています。

 

現在はダムの底に沈む村と、村で過ごした人々の想いが描かれています。

切なくなって心に残るものがあります。

 

水域 の見どころ

一度読み終えてからもう一度読みたくなる作品です。

 

序盤は千波視点で進みます。

千波から見ると、夢の中の村はあくまで初めて見る村です。

来たことがあるような気もするし、おじいさんも会ったことがあるような気がする。

・・・くらいの印象はあったようですが。

 

夢の話を祖母に話したところ、「・・・それ、ばあちゃんの昔の家じゃないかねぇ」と聞かされます。

実は千波も小さい頃一度だけ来たことがあるそうです。

この話により、村は現実に存在する村、或いは存在した村ではないかと推測できます。

 

昔のことだからもうあまり覚えていない、という祖母。

ここまでが導入部でしょうか。

ここから親子三代の村に纏わる物語が始まります。

若いころの祖母と母の物語があり、全2巻としては濃密な内容です。

過去の話を読み、理解すると序盤の祖母や母の気持ちを思ってもう一度読みたくなるのです。

 

また、見かたによってはある意味ホラーな展開ともとれますが、不思議と怖さはありません。

どこか懐かしい雰囲気と相まって、もの悲しさを先に感じます。

 

私には作中に登場する村のような故郷はありません。

しかし、不思議と郷愁を誘う作品です。

雨の止まない村に近い故郷を持つ人にとってはさらに感慨深く感じるのはないでしょうか。

 

まとめ

 

夢の中の村では雨と川、そして森の匂いなどの涼しげなイメージが紙面を通して感じられます。

現実の町は、郊外といった感じで日照り続きでカラカラ。いかにも現実的な夏の町です。

 

この対比のおかげなのでしょうか。

結果として村の清涼感が増して感じられます。

私には、人が暮らす理想的な環境に思えました。

 

藁の屋根や瓦の屋根などの日本家屋に日本間、畑や円柱状のポストなど、なぜか懐かしさを覚える風景です。

心地よいゆっくりとした時間の流れを感じます。

しかし、住人がおじいさんと少年の二人しかいないところに少し現実離れした夢の中のような不思議な感覚を残しています。

 

また、村は主要なキャラクター全てに関わりがあります。

戦中、戦後であろう祖母の時代。

ダム建設の話があり、立ち退くか戦うかの母の時代。

そして、町に住む千波の時代。

それぞれが村に関係しているのです。

 

このように夢の話を置いておけば現実にあってもおかしくない話です。

それがなぜこんなに心惹かれるのか。

私個人の意見としては、自然や人が生きることの美しさ、失われてしまったものの切なさなどを独特な雰囲気で描いているからだと考えます。

哲学的になりますが、「生きる」ことそのものについて考えてしまうのです。

 

そう考えたときに私は祖父、祖母に昔の話や、祖父と祖母のおばあさん、おじいさんの話を聞きたくなりました。

家族というものは血のつながりだけではないと思うからです。

 

淡々と進む話の中で切なくて泣ける場面もありました。

すごくいい作品です。

蟲師が好きな人にもおススメします。

 

水域 コミックス情報

 

作者:漆原 友紀 様

全2巻 完結

出版社:講談社

作者:漆原友紀様 出版社: 講談社 (2011/1/21)
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