バランスポリシー -少女の身体、少年の心-

トランススイッチ(旧チェンジH)で連載されていた「バランスポリシー」の感想です。

男性が手術によって性転換し、女性になるというTSF作品です。

田舎の清涼感、夏の空気感の中でおこる切ない物語です。

 

※トランススイッチ(旧チェンジH)とは

「TS(トランス・セクシャル)コミック」と銘打って、異性に転換する物語をテーマにしたアンソロジーを謳っているが、女装・男装の異性装まで幅広く取り扱っている。男の娘を題材にした作品が多く、特に第1号の「pink」ではトランスセクシャルを主題とする作品が全12作品中4作品しか収録されていなかったが、号数を重ねるごとにTS作品の割合が増えていった。各号には「pink」(第1号)・「blue」(第2号)など色の名前が付けられ、タイトル文字のテーマカラーとなっている。当初は単発のアンソロジーコミックとして出発し、のちに季刊となったが、定期刊行物としてではなく、あくまで季刊ペースの単行本となっている。掲載作品の単行本化の際には、専用レーベルとなる「TSコミックス」より刊行される。また、本誌である『チェンジH』自体もアンソロジーコミックであるためTSコミックレーベルでの扱いとなっており、リニューアル後の『トランススイッチ』も同様にTSコミック扱いとなる。

出典:Wikipedia チェンジH 創刊、季刊化

このようなTSや異性装を取り扱う雑誌です。

現在、廃刊や休刊の告知はないものの続刊はありません。

作者:吉富昭仁様 出版社: 少年画報社 (2012/11/19)

バランスポリシー あらすじ

 

ずっと前から世界中で子供が生まれにくくなっている。

特に女子が生まれにくくなっているため、政府は男子を女子に改造して子供を産ませることにした。

 

14歳の夏。

真臣の親友、「健二」は東京の病院に行って女子になって帰ってきた・・・。

バランスポリシー キャラクター

 

真臣

健二の親友。

女性化して帰ってきた健二にとまどいを見せる。

一番身近で女性化した健二の葛藤を見届けることになる。

 

大井健二

男女均衡政策により女子になった真臣の親友。

骨や神経までも女性化しており、手術後の身体に慣れていないため運動があまりできなくなっている。

感覚や周囲の変化に苦しむ。

女性化した今も真臣の姉のちとせに想いを寄せている。

 

ちとせ

真臣の姉。

健二とミーコからは「ちー姉」と呼ばれる。

やさしく美人だが、時折よくわからない言動をとる。

 

福山五郎

健二が女性化手術のために入院していた病院で知り合った同い年の男子。

健二同様に女性化手術を受ける。

 

ミーコ

真臣・健二の同級生。

小さい頃から三人でよく遊んでいた。

健二に想いを寄せている。

バランスポリシー 感想

 

TSF作品だということは掲載誌などからもわかっていて読んでみたのですが、いい意味で裏切られる展開でした。

分類するならTSFとなるのだと思いますが、ドラマ性がある作品で一般的なTSF作品とは少し違います。

ラブコメやコメディなどではなく、ジャンルとしてはヒューマンドラマが一番近いと思います。

バランスポリシーの世界の設定

まず、普通のTSFとの違いの前に、本作の設定から説明します。

 

女性化手術をしなければならない背景には、以下のような事情があります。

少子化問題は世界的な問題となっている。
原因は不明だが、女児の出生率の低下が顕著。
日本の人口は約4千万人となっており、現在の約3分の一。
(作中での)去年の出生は1万人。うち女児は2割に満たない。

つまり、女児の出生は2000人に満たないということです。

 

そのため、政府は男女均衡政策を施行します。

男女均等政策とは 男性を女性に改造して子供を産ませる政策。

先進国では試験的に男性でも出産できるよう適合者には女性化の処置を求める。

 

男性を女性に性転換することにより出生率を上げようということですが・・・。

女性化するための資金は戦闘機一機分のコストを要す。
また、維持費にも同じだけのコストがかかる。
生まれた子供のうち8割強は男子で、そのうち数百人が女子に改造されている。
作中では943名の処置に成功したとの描写がある。

つまり、簡単に考えると8000人のうち1000人は適合者ということになります。

男子8人中1人は女性になっているということです。

 

943機の戦闘機分。さらに維持にも943機分のコスト。

そんなコストをかけるなら人工子宮などのほうがよさそうですが・・・というのは野暮なのでしょうね。

 

一方で改造された人たちにもメリットがあります。

子供ができた世帯には国から助成金がでる。
また、男児が適合者で女性化に成功した際にはさらに助成金がでる。
改造された者はなるべく長期間子供が生めるよう肉体の老化を遅らせる技術が施される。

このようなメリットがあります。

また、老化を遅らせる、とありますが寿命が延びるわけではなく、若い姿のまま生を全うするということです。

この点だけはメリットといえるのではないでしょうか。

 

バランスポリシーの世界には、以上の問題が背景にあります。

TS要素

TSFや異性装を扱う漫画雑誌に載っていただけあって、TSFがメインとなっている作品です。

手法による分類としては

  • 手術

現実社会で行われている医学的な性転換手術

出典:Wikipedia TSF 手法による分類

本作のTSFの手法は、医学的な性転換手術になります。

上で書きましたが、本作では手術に恐ろしいコストがかかるため男性に戻ることはできないと考えられます。

 

TSFがメインとなっていると書きましたが、TSFとしてよくあるコメディ要素などはほとんどなく、性転換したことに対する自身の内面での葛藤や、周囲の人たちとの関係性の変化に比重が寄った作品だと感じました。

女の子になってしまってドキドキするようなシーンはありません。

どちらかというと親友が女子になってしまい真臣がドキドキする場面が多いです。

しかし、そういったTSモノにありがちな展開がメインではありません。

好きな人が同性になってしまった。

好きな人と同性になってしまった。

親友が異性になってしまった。

このような変化から起こる出来事がメインであり、物悲しい雰囲気が斬新です。

全体を見ると、シリアスな展開が多く、TSFとしては異色な作品といえるのではないでしょうか。

 

また、直接的なものではありませんが性的な描写があります。

自我同一性の拡散

舞台は恐らく未来の日本の田舎です。

少年時代と田舎の風景と夏がマッチしていてとてもいい雰囲気です。

 

しかし、少子化による男女均等政策により健二が適合者として手術を受け、女性になることになってしまいます。

手術は大規模なもので、男性も子供を産めるようにするだけではなく、骨格や神経、皮膚までも女性にするもので、改造といっていいものです。

そのため、手術してから普通に生活できるようになるまで1年間の時間を要します。

 

1年後に健二は無事に帰ってきましたが、今までと同じというわけにはいきません。

 

それぞれの立場に自分を置き換えて考えてみます。

まず、真臣からみれば、健二が女性に変わろうとも小さいころから一緒で親友だった男友達です。

以前と同じように接しようとしているのだと思います。

しかし、真臣は多感な14歳です。

中身は健二だとしても見た目がかわいい女性なので戸惑うし、気を使うこともあります。

 

逆に健二側から見ると、自分に距離を置こうとしていると感じます。

自分は(見た目以外は)変わっていないのに、周りは他人のような目で見てくる。

友人や家族はどこかにいってしまった、と。

 

男を女に改造してまで人間は生き残らなければならないものなのか。

身体は女性でも心は男性のままの健二は葛藤します。

 

さらに、健二が好きだった真臣の姉の「ちー姉」との関係。

健二を好きだった「ミーコ」との関係でも一波乱あります。

 

そして、物語の終盤に倒れる健二。

改造の影響で心臓に不具合があることがわかります。

まとめ

TSF作品なので、TSモノが好きな人におすすめします。

また、それだけではなくドラマ性も高い作品ですので、ヒューマンドラマが好きな人にもおすすめです。

 

身体を女性化したとしても心が男性のままなので、人工的な性同一性障害のようになってしまっています。

ここから発生する様々な人間ドラマ。

考えさせられる漫画です。

バランスポリシー コミックス

 

作者:吉富昭仁様

全2巻:完結

掲載誌:トランススイッチ(旧チェンジH)

試し読み

下のバナーからBookLive!へアクセスし「ブラウザ試し読み」か「アプリ試し読み」をクリック。
※アプリ試し読みはBookLive!Readerアプリのダウンロードが必要です。

コミックス

作者:吉富昭仁様 出版社: 少年画報社 (2012/11/19)
最新情報をチェックしよう!